Fairy tale writer
Rei
天使のテスト
Rei
トト子はひとりで公園に行きました。
朝の空気は冷たく、トト子はうす手のワンピースと赤いガウンだけでここへ来たことに少しこうかいをしていました。
小鳥たちもまだねむっている時間なので、あたりはシーンとしずまりかえっています。
それでも、トト子は木のおいしげったひとけのない公園のおくの方までずんずん歩いて行きました。
すると、青いビニールでできた小さな家が見えてきました。
その家のビニールのやねには『天使の家』と書かれていました。
トト子はそっと家の中をのぞきこみながら言いました。
「ごめんください。」
「・・・・」
だれも出てきません。
「ごめんくださぁーい。」
トト子はさっきより少し大きく言いました。
「はぁ?だれだぁ?」
すると、中から白くて長いひげをはやした、おじいさんが出てきました。
トト子はすこしおどろきましたが、こう言いました。
「あなたが天使さん?」
おじいさんは、はてな?と首をかしげました。
さらにトト子は言いました。
「あなたが天使さんなんでしょ?ほら、ここに書いてあるじゃない、『天使の家』って。」
おじいさんはやねに書かれた『天使の家』の文字を見てやっと気づいたように笑いました。
「わっはっは。そうじゃ、そうじゃ。ここは『天使の家』じゃ。だからわしは天使じゃ。」
「ほら!やっぱり天使はいたのね。」
トト子はにこっとほほえみました。
「でも、思っていた天使とぜんぜんちがう。だって、天使のわっかがないし、羽もない。それにこんなに年よりじゃない。」
天使はドキッとしましたがこう言いかえしました。
「だれが天使にはわっかがあると言った?だれが羽を見た?本当の天使はわっかもなければ羽も生えとらん、年よりのじいさんじゃ!」
トト子はそれもそうだと思いました。
「ところでなんの用じゃ。用がないならさっさと帰っておくれ。」
と、天使は言いました。
トト子はしんけんに話し出しました。
「わたしのお母さんが病気なの。ここに天使がすんでるって聞いて、お母さんの病気がなおるよう、おねがいしに来たの。」
すると天使のおなかがぐーっとなりました。
「わるいがおじょうちゃんのねがいをかなえることはできんのじゃ。なぜなら、わしはずっとむかしに天使をやめたのじゃよ。後をつぐ弟子もおらんから、わしの代でおわりじゃ。」
そして、またおなかがぐーっとなりました。
「まあ、おなかがすいているの?かわいそうな天使さん。」
トト子はそういって、ガウンのポケットから食べかけのビスケットのふくろをとり出し、天使にわたしました。
「今はこれしかないけど、どうぞ。」
天使はこれだけじゃおなかはいっぱいならないともんくを言いましたが、しかたなくそのビスケットを一まい食べました。
『なんだこのビスケットは。こんなにうまいビスケットは今まで食べたことがない。』
天使はそう思ってのこりのビスケットを口いっぱいに入れてしまいました。
「ぐおっほ。ぐおっほ!」
天使はビスケットをいっきに食べたせいで、のどをつまらせてしまったのです。
「まあ、たいへん!お水をくんできます!」
トト子はあわててコップももたずに川へ走って行きました。
「ぐおっほ。ぐおっほ!」
川についたトト子は、コップをわすれたことにきづきましたが、いそいでいたので冷たい水を手でくんで、こぼさないように一生けんめいはこんでいきました。
「ごめんなさい。これしかないけどのんで。」
そう言って、天使の口もとに水をたらしました。
『あれ?なんとふしぎなことだ。こんな少ない水なのに、のどのかわきがなくなった。』
トト子は、ほっとあんしんして言いました。
「天使さん。わたし、本当にお母さんの病気をなおしたいの。ねがいをかなえることができないなら、わたしを弟子にしてください!」
天使はとまどいました。
なぜなら天使はウソをついていたからです。トト子の話に合わせて、ついつい天使と言ってしまっただけの、ただのおじいさんだったからです。
おじいさんはもうしわけないきもちになりました。
天使はいないと本当のことを話すべきか、このままうそをつきとおすか。
トト子の手はまっ赤にはれていました。
トト子がおじいさんのために、冷たい水をはこんできた手です。
おじいさんはこう言いました。
「よかろう!天使になるにはきびしいテストがある。さいごまでできるかな?」
トト子は顔を上げてうれしそうに言いました。
「はい!」
おじいさんは、うそをつきとおすことにきめたのです。
なにもかんがえていないおじいさんは少しこうかいしましたが、そんなこと言ってられません。おじいさんはかんがえて、かんがえて、こう叫びました。
「まずは、火おこしじゃ!
天使のせかいでたいせつなものは『水』『火』『風』じゃ。
実はさきほど、ビスケットをのどにつまらせたのは『水』のテストだったのじゃ。つづいて、『火』のテストは火おこしじゃ。」
トト子はこまった顔で言いました。
「火をつかったことなんていちどもないわ。天使さん、どうしたらいいですか?」
天使はざんねんそうな顔をして言いました。
「どうすればいいかは自分でかんがえる、それがテストじゃ。それができなければ天使になることをあきらめるんじゃな。」
トト子はなきたいきもちになりました。お母さんの病気を本当になおしたい。でもここであきらめたらおわってしまう。
トト子はかんがえました。
「まずは、木のえだをあつめよう。」
トト子はこえだをあつめておじいさんの足もとにおきました。
こえだをひろっては、おじいさんの足もとになんどもなんどもあつめました。そんなトト子のすがたを見ていると、おじいさんのむねがどんどんあたたかくなってきました。
「もういい!次は『風』じゃ!天使は風をじゆうにあやつることができるのじゃ。やってみせろ。」
おじいさんは少しいじわるなテストを言ってしまいました。
トト子はかんがえました。お母さんの事。楽しかったことを思い出し歌いだしました。
トト子の歌ごえはとても上手とは言えませんでした。それでも、なぜかなつかしく心にひびく歌ごえでした。
気がつくとおじいさんはないていました。
「もういい!けっかは出た。」
トト子のテストはおわりました。
天使になれるのかどうか、おじいさんは言いました。
「3つのテストがおわった。
まず『水』のテストではのどをつまらせてくるしんでいたわしのために、冷たい水を小さな手ではこんできてくれた。その気持ちがわしの心のかわきをうるおしてくれた。
次の『火』のテスト。できないことをあきらめることなく、こえだをはこぶすがたが、わしの心に火をともしてくれた。
さいごに『風』のテスト。決してうまくはないが、わしの心になつかしいおだやかな風をおくってくれた。とてもすばらしい風じゃったよ。」
トト子はうれしそうに聞いていました。
「これからは、今日よりたいへんなことが、もっとおこるかもしれない。それでも、あきらめない心、やさしい気持ちがあれば、ぜったいのりこえられる。きみはりっぱな天使だ。」
おじいさんは木の上からふわりふらりとおちてきた白い羽をつかむとトト子にわたしました。
「天使のテスト、ごうかくじゃ。」
「やったぁ!これでお母さんの病気がなおるわ。ありがとう、天使さん!ありがとう、さようなら!」
そう言って、トト子は走って帰っていきました。
おじいさんはトト子の後ろすがたをうれしそうに見つめていいました。
「ふしぎな子だったなぁ。」
青いビニールのやねの上では今まさに、すの中の小鳥がたまごからかえろうとしています。